タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することで生じた肺の炎症性疾患である。
呼吸器機能検査で正常に復することのない気流閉塞を示す。
気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に作用することにより起こり、通常は進行性である。
臨床的には徐々に生じる労作時の呼吸困難や慢性の咳、痰を特徴とするが、これらの症状に乏しいこともある。
「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版」より
階段の上り下りなどに日常生活の中で体を動かしたときに息切れを感じたり、風邪でもないのにせきやたんが続いたりすることがCOPDの主な症状です。
COPDは肺だけでなく全身に影響をもたらし、全身性炎症、心・血管疾患、骨粗鬆症、糖尿病などを併発しやすいことが知られています。
また、COPDが進行すると呼吸不全や心不全を起こす命に関わる病気であることから、早期発見、早期治療が重要になります。
COPDの初期段階の患者は、病気と認識せずに放置してしまいがちです。
このような症状のある方はCOPDの可能性があります。
「COPD質問票」の総ポイント数が17ポイント以上の場合はCOPDの可能性があります。
「年のせいだから仕方ない」、「最近運動不足だから」と考えずに、当クリニックにご相談ください。
呼吸器疾患の種類は多く、他疾患と鑑別を行うための検査が必要となります。
肺癌、間質性肺炎、気管支拡張症などとの鑑別に必要であり、進行したCOPDであれば過膨張を起こした肺が観察されます。
虚血性心疾患、不整脈など循環器疾患の関与の鑑別に必要です。
肺活量と、息を吐くときの空気の通りやすさを調べます。
(COPD診断基準=気管支拡張薬吸入後で1秒率が70%未満)
※1秒率(FEV1%):努力肺活量のうち、最初の1秒間に吐き出した空気の量(FEV1)/努力肺活量(FVC)×100
貧血や心不全との鑑別に有用です。
早期発見につながりやすく、COPDであれば肺胞壁が破壊され、気腔が拡大しているのが観察できます。
酸素飽和度を非侵襲的に連続測定可能で、ガス交換の状況をモニターできます。
喘息患者では呼気中のNO濃度が上昇しております。
COPD患者では気道のNO合成酵素の発現が増加していますが、NO濃度は上昇しないということが分かっています。
一部のCOPD患者ではNO濃度が上昇しており、ACO(Asthma and COPD Overlap)と呼ばれ、吸入ステロイド薬を使用することもあります。
COPDは別名「たばこ病」と言われており、慢性疾患の一種です。
なぜならば、原因の90%以上は喫煙だからです。たばこなどの刺激で気管支に炎症が起こり、ついには肺胞が破壊されることによって呼吸がしにくくなるということが、COPDの病態の本質です。
喫煙開始の年齢が若いほど、また1日の喫煙本数がたとえ1本でも、COPDのリスクとなり、喫煙本数が多いほどCOPDになりやすく、進行しやすいと言われています。
COPDになる最大の原因は喫煙です。
既にCOPDになっていても、禁煙を行えば、その後の呼吸機能の低下は喫煙していない人の呼吸機能減少率とほぼ同じになるとされています。
COPD以外でも、喫煙は肺や心臓をはじめとした全身の病気に影響を及ぼしています。たばこを吸うことで、心筋梗塞や肺がんを発症するリスクは、非喫煙者の約3〜5倍高くなります。
禁煙をおこなえば、そのリスクは非喫煙者と同じレベルまで低下しますが、心筋梗塞で約5年、肺がんで約20年かかるといわれています。完全な禁煙をおこなわなければ、さらに長い年月がかかり、リスクの低下も約50%程度にとどまります。
禁煙はCOPDの治療では最も重要で、完全な禁煙が必要です。
※1秒量:努力肺活量(最大限に息を吸い込んだ後、一気に吐き出した空気の量)のうち、最初の1秒間に吐き出した空気の量
たばこに対する依存性の強い人は、一定の条件を満たせば、禁煙治療は保険適用の対象となります。
当クリニックではニコチン貼付薬(ニコチネルTTS)によるニコチン代替療法や、バレニクリン錠(チャンピックス錠)による非ニコチン製剤の飲み薬を使って禁煙する治療を行なっています。どうぞお気軽にご相談ください。
風邪やインフルエンザなどの感染症が引き金となって、COPDの症状が急激に悪化することを増悪(ぞうあく)といいます。
COPD患者は、感染症が重症化しやすく、かつCOPDの増悪原因となることから、ワクチンの接種が重要です。増悪を防ぐためのワクチンにはインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの2種類があります。
インフルエンザワクチンは重篤な症状を軽減し、死亡率を減少させると報告されています。
肺炎球菌はCOPD の増悪や肺炎を起こす病原体の一つで、肺炎球菌ワクチンには高齢者の肺炎発症を予防する効果があるとされます。
また、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを併用することによって、インフルエンザワクチン単独の場合に比べCOPDの感染性の増悪の頻度を減少させることが報告されています。
すべてのCOPD患者さんとそのご家族、介助者にも接種をおすすめします。
成人の肺炎球菌ワクチンは現在2種類のワクチンがあります。
肺炎球菌には93種類の血清型があり、そのうちの23種類の血清型に効果があります。
また、この23種類の血清型は成人の重症肺炎球菌感染症の原因の約70%を占めるという報告があります。
免疫記憶が確立しないため、5年以上の間隔をあけて再接種が必要になる場合があります。65歳以上の高齢者を対象とし定期接種が可能です。
20種類の肺炎球菌の血清型抗原を含んでおり、65歳以上の成人におけるワクチン含有型の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)、菌血症を伴わない肺炎球菌性肺炎を減少させたという報告があります。
ニューモバックスNPとは異なり、免疫記憶が確立されるため、65歳以上の高齢者に関しては再接種の必要がなく一生に一回の接種となります。
2014年6月より、65歳以上の高齢者にも任意での接種が認められております。
両方のワクチンに共通している血清型抗体の効果が相乗的に高まり、肺炎球菌ワクチンとしての血清型カバー率が拡大します。肺炎球菌ワクチンの予防効果を増強、拡大させるためには両ワクチンの併用をお勧めいたします。
特に肺炎球菌感染症を起こしやすい疾患として、慢性の呼吸器疾患以外にも、糖尿病、心疾患、肝硬変などの肝疾患がある方はぜひ、併用することをお勧めいたします。
一般社団法人 日本感染症学会ホームページより引用
〔用語解説〕PPSV23 (ニューモバックスNP)、PCV13(プレベナー)
COPDの薬物療法では、気管支を拡張させる働きをもつ薬剤を用いて、呼吸をしやすくします。
基本的には薬を吸い込む「吸入治療」を行います。吸入治療は気管支に有効に作用するので有利ですが、正しい吸入方法を身に付けることもポイントになります。
その他、たんをとる喀痰調整薬、感染症を防ぐ抗生物質、増悪を繰り返す場合には吸入ステロイド薬を使用することもあります。
当クリニックではガイドラインに即した薬物療法を行っております。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第4版より
気管支の収縮を抑制し、気道閉塞障害を改善することにより呼吸を楽にします。
症状の改善や増悪の減少効果が認められており、長期的には、COPD患者さんの疾患の進行や死亡率を抑制する可能性が報告されている薬もあります。
一般名 | 商品名 | デバイス |
---|---|---|
チオトロピウム臭化物水和物 | スピリーバ | ハンディへラー レスピマット |
グリコピロニウム臭化物 | シーブリ | ブリーズヘラー |
アクリジニウム臭化物 | エクリラ | ジェヌエア |
ウメクリジニウム臭化物 | エンクラッセ | エリプタ |
交感神経を刺激して気管支を広げる効果があります。
わが国では吸入薬と貼付薬が使用可能です。吸入薬はすみやかな呼吸困難の軽減効果が期待でき、貼付薬は夜間症状の改善に優れています。
一般名 | 商品名 | デバイス |
---|---|---|
サルメテロールキシナホ酸塩 | セレベント | ロタディスク ディスカス |
インダカテロールマレイン酸塩 | オンブレス | ブリーズヘラー |
ホルモテロールフマル酸塩水和物 | オーキシス | タービュヘイラー |
より強力な気管支拡張作用による症状改善効果があります。
1日1回の吸入で効果が24時間持続し、呼吸機能の改善効果が翌朝まで認められます。
一般名 | 商品名 | デバイス |
---|---|---|
グリコピロニウム臭化物(抗コリン薬) インダカテロールマレイン酸塩(β2刺激薬) |
ウルティブロ | ブリーズヘラー |
ウメクリジニウム臭化物(抗コリン薬) ビランテロールトリフェニル酢酸塩(β2刺激薬) |
アノーロ | エリプタ |
チオトロピウム臭化物水和物(抗コリン薬) オロダテロール塩酸塩(β2刺激薬) |
スピオルト | レスピマット |
炎症抑制効果のあるステロイド薬が配合されており、症状が不安定で増悪をくり返す場合や、気道に炎症がみられ喘息症状をともなう場合に使用されます。
長時間作用性抗コリン薬のみ使用している場合には、長時間作用性β2刺激薬/吸入ステロイド薬(ICS)配合剤が併用されます。
一般名 | 商品名 | デバイス |
---|---|---|
サルメテロールキシナホ酸塩(β2刺激薬) フルチカゾンプロピオン酸エステル(ICS) |
アドエア | ディスカス エアゾール |
ホルモテロールフマル酸塩水和物(β2刺激薬) ブデソニド(ICS) |
シムビコート | タービュヘイラー |
ホルモテロールフマル酸塩水和物(β2刺激薬) フルチカゾンプロピオン酸エステル(ICS) |
フルティフォーム | エアゾール |
ビランテロールトリフェニル酢酸塩(β2刺激薬) フルチカゾンフランカルボン酸エステル(ICS) |
レルベア | エリプタ |
中等度以上の気流閉塞を有するCOPD患者では、吸入ステロイド薬の使用が、自覚症状、呼吸機能を改善し、増悪の頻度を低下させるといった報告があります。
長時間作用性抗コリン薬/長時間作用性β2刺激薬がすでに使用されている場合は、少量の吸入ステロイド薬を併用することがあります。
一般的に1秒量の改善効果は吸入の気管支拡張薬より小さいとされますが、末梢気道の拡張作用や呼吸筋力の増強作用が報告されています。
また、低用量テオフィリンは気道の炎症細胞を減少させることが示されています。
COPDの増悪頻度と増悪期間を減少させることが示されています。
COPDの増悪頻度の抑制、増悪に対する治療介入時の増悪の持続期間の短縮やQOLを向上させることが報告されています。
増悪時には経口あるいは注射によるステロイド薬投与が有効です。抗生物質と併用されることもあります。
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