血圧の数字より、その先にあるもの
高血圧治療の基本

はじめに

健康診断で「血圧が高めです」と言われても、痛みもだるさもないため、実感が持てないという方は少なくありません。「もう少し様子を見てから」と考えているうちに、気づけば数年が過ぎていた、というお話もよくうかがいます。

当院では高血圧の考え方を5枚のスライドにまとめて共有しています。もともとは医療者向けに作ったものですが、内容そのものは、治療を受ける方にこそ知っていただきたいことばかりでした。そこで、専門的な知識がなくても読み進められるように、1枚ずつ解説を添えてこのページにまとめました。

血圧の治療は、「何のためにやっているのか」が分かると景色が変わります。毎日の測定も、定期的な通院も、続ける意味が見えてきます。逆にそこが伝わらないまま数字だけを追いかけると、治療は苦しい作業になってしまいます。このページでお伝えしたいのは、その「何のために」の部分です。

なお2025年8月、日本高血圧学会から6年ぶりの改訂となる「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」が発表されました。降圧目標が年齢や合併症を問わず統一されるなど、治療の進め方に小さくない変更があります。このページの内容は、この改訂を反映しています。

このページの読み方

スライド1から順に読んでいただくと、診断・リスク評価・薬の選び方・目標値という流れで理解が進むように構成しています。気になるところだけをお読みいただいても構いません。

各項目の末尾には「用語のはなし」として、その回に出てきた言葉の説明を添えています。

最後の「補足」では、JSH2025で何が変わったのかを改めて整理しました。

スライド1|高血圧治療の基本 ― 血圧の数字を追うのではなく、心血管リスクを下げる

健診で「148/92」といった数字を見ると、多くの方はまず「この数字を下げなければ」と考えます。けれども医師が考えているのは、少し違うことです。高血圧の治療の目的は、血圧計の数字そのものを小さくすることではなく、その先にある脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎臓病を防ぐことにあります。血圧は目的ではなく、将来の病気の起こりやすさを映す指標のひとつだとお考えください。

血圧の数字は、上と下の2つで表されます。上の数字(収縮期血圧)は心臓が縮んで血液を押し出したときに血管にかかる圧力、下の数字(拡張期血圧)は心臓がゆるんで血液をためているときの圧力です。この圧力が高い状態が長く続くと、血管の壁が少しずつ傷み、硬くなっていきます。高血圧が「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれるのは、痛みもだるさもないまま、この変化が何年もかけて進むからです。

そしてもうひとつ大切なのは、1回だけ測った数字では治療を決められないということです。血圧は一日のなかでも、緊張しているときとくつろいでいるときでも変わります。診察室で1回測った148/92は、あくまで「その瞬間の一点」にすぎません。ここから、�@正しく測る、�Aリスクを評価する、�B薬を選ぶ、�C目標を決める、という順番で考えていきます。

用語のはなし

  • mmHg(ミリメートル水銀柱):血圧の単位です。かつて水銀柱の高さで圧力を測っていた名残で、この単位が使われ続けています。
  • 心血管リスク:これから先の一定期間に、心筋梗塞や脳卒中などを起こす可能性の高さのことです。

スライド2|最初の治療は「正しく測る」こと

意外に思われるかもしれませんが、高血圧の診療で最初に大切なのは、薬でも食事でもなく「正しく測ること」です。測り方が乱れていると、その後の診断も薬の増減も、すべて土台からずれてしまいます。

血圧の測定には、役割の違う2種類があります。
ひとつは診察室血圧で、決められた条件のもとで測り、診断の物差しをつくるためのものです。
もうひとつは家庭血圧で、こちらは生活のなかの「いつもの血圧」を捉えるためのものです。どちらが正しいという話ではなく、両方そろってはじめて全体像が見えてきます。

家庭で測っていただくと、診察室だけでは分からない2つのことが見えてきます。
ひとつは白衣高血圧。診察室では緊張して高く出るけれども、家では落ち着いている状態です。
もうひとつが仮面高血圧で、こちらはその逆、診察室では正常なのに家庭や職場では高くなっている状態です。仮面高血圧は見過ごされやすく、しかも血管への負担は確実にかかっているため、家庭血圧の記録がとりわけ役に立ちます。

測るときは、次の点を守っていただくと精度が上がります。
腕の太さに合ったカフ(腕に巻く帯)を使うこと。背もたれのある椅子に座り、足の裏を床につけること。座って5分ほど落ち着いてから測ること。そして一度きりで判断せず、複数回測って平均を見ること。朝と晩の値を記録して受診時にお持ちいただければ、診療の質は大きく変わります。

最後にひとつ注意点です。腕を締めつけないタイプの血圧計(カフレス機器)やスマートウォッチの血圧表示は、日々の体調の目安としては便利ですが、それだけで高血圧の診断を下すことはできません。
数値の正確さが十分に確かめられていないためです。診断は、腕にカフを巻いて測る血圧計の値で行います。

用語のはなし

  • カフ:血圧計で腕に巻く帯の部分です。腕の太さに合っていないと、値が高く出たり低く出たりします。
  • 白衣高血圧/仮面高血圧:測る場所によって血圧が食い違う状態のことです。「白衣」は医療者の白衣に由来します。

スライド3|薬を始めるか ― 血圧値 × リスクで決める

「血圧が高い=すぐに薬」と考えられがちですが、実際の判断はもう少し細やかです。血圧の数値と、その方がもともと抱えているリスクの大きさを、かけ合わせて考えます。ここでは、日本国内で実際に用いられている日本高血圧学会の指針(JSH2025)にそって、詳しくご説明します。

まず、血圧は4つの段階に分けて考える

日本では、診察室で測った血圧を次のように分類しています。この区分自体は今回の改訂でも変わっていません。

日本では、診察室で測った血圧を次のように分類しています。この区分自体は今回の改訂でも変わっていません。

  • 正常血圧:120/80mmHg未満
  • 正常高値血圧:120〜129かつ80未満
  • 高値血圧:130〜139、または80〜89
  • 高血圧:140/90mmHg以上(さらに�T度=140〜159/90〜99、�U度=160〜179/100〜109、�V度=180/110以上に分かれます)

家庭で測る場合は、これより5mmHgずつ低い値が目安になり、135/85mmHg以上で高血圧とされます。

ここで注意していただきたいのは、「高血圧ではない=安心」ではないということです。
JSH2025は、120/80mmHg以上のすべての方を血圧管理の対象としています。高値血圧(130〜139/80〜89)の段階でも、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクが上がることが国内外の研究で示されているためです。

同じ数値でも、対応が変わる ― リスク層別化

血圧の数値が同じでも、その方の背景によって危険度は大きく異なります。そこで診療では、血圧の区分と、それ以外の危険因子を組み合わせて、低リスク・中等リスク・高リスクの3段階に振り分けます。これをリスク層別化といいます。

判断に用いられるのは、年齢、喫煙習慣、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の異常)、糖尿病、慢性腎臓病、肥満、脳卒中や心臓病にかかったことがあるか、そして心臓・腎臓・血管にすでに傷みが出ていないか、といった要素です。指針にはこれらを一覧にした表が用意されており、医師はそれに照らして判断しています。

たとえば同じ135/85mmHgでも、他に何も持病のない40代の方と、糖尿病があり喫煙している70代の方とでは、これから先の10年で病気を起こす可能性がまったく違います。血圧の数字だけで一律に線を引かないのは、このためです。

段階ごとの、実際の進め方

初診時の血圧とリスクの組み合わせによって、次のように進みます。

高値血圧(130〜139/80〜89)で、リスクが低い・中等度の場合

まず生活習慣の改善に取り組みます。減塩、カリウムを含む野菜や果物の摂取、体重管理、運動、節酒、禁煙です。

高値血圧で、リスクが高い場合(脳卒中や心臓病にかかったことがある、糖尿病があるなど)

生活習慣の改善をおおむね1か月以上続けても十分に下がらなければ、薬による治療の開始も含めて、最終的に130/80 mmHg未満を目指します。

�T度高血圧(140〜159/90〜99)で、リスクが低い・中等度の場合

生活習慣の改善を指導したうえで、1か月以内に再評価します。そこで十分に下がっていなければ、生活習慣の取り組みを強めながら、薬による治療を始めます。

�T度高血圧でリスクが高い場合、および�U度・�V度高血圧(160/100以上)

様子を見ずに、生活習慣の改善と薬による治療を同時に開始します。

「1か月以内」というスピードが、今回の改訂点です

JSH2025でとくに強調されたのが、この時間の感覚です。従来は「おおむね1か月後をめどに再評価し、改善がなければ薬物治療を考慮する」という表現でしたが、今回は「薬物療法は診断から1か月以内に」と、より明確に踏み込んだ書き方になりました。診断から1か月以内に治療を始めたほうが、その後の血圧管理が良好になるという研究報告があるためです。

その背景には、血圧が目標に届いていないのに治療を見直さないまま時間が過ぎてしまう、という長年の課題があります。日本は他の先進国と比べて血圧のコントロール率が低いことが指摘されており、「もう少し様子を見ましょう」を繰り返さないことが、今回の改訂の狙いのひとつになっています。

ですので、受診されて1か月ほどで「そろそろお薬を始めましょうか」とお話しすることがあります。これは急かしているのではなく、指針に沿った進め方です。

ただし、急いで下げればよいわけではありません

一方で、下げる過程で起こりうる不都合にも注意が必要です。腎臓の働きが急に落ちること、立ちくらみやふらつき、倦怠感や失神といった症状、血液中のカリウムが上がりすぎることなどです。こうしたことが起きていないかを、血圧の数値と一緒に確認しながら進めます。

また、75歳以上の方については、お一人で通院できる状態か、介助が必要か、といった生活の状況に応じた目安が別に定められています。ご高齢の方すべてに同じ数字を当てはめるわけではありません。

参考:米国ではどう判断しているか

米国では、PREVENTというリスク計算ツールが使われています。年齢・血圧・コレステロール・腎機能・喫煙・糖尿病などから今後10年間に心血管の病気を起こす確率を推定し、7.5%以上であれば薬による治療を始める、という考え方です。
日本ではこの計算式ではなく、上でご説明したリスク層別化を用います。数値の出し方は違いますが、「血圧の数字だけで決めず、背景を含めて判断する」という発想は共通しています。

用語のはなし

  • 高値血圧:高血圧の一歩手前にあたる段階(130?139/80?89 mmHg)です。「まだ高血圧ではない」段階ですが、リスクは上がり始めています。
  • リスク層別化:血圧以外の危険因子も合わせて、その方の危険度を低・中等・高の3段階に分けることです。
  • 脳心血管病:脳卒中、心筋梗塞、狭心症、心不全など、脳と心臓・血管に関わる病気をまとめた呼び方です。
  • CKD(慢性腎臓病):腎臓の働きが少しずつ低下した状態が続くことです。高血圧とは互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。

スライド4|第一選択薬 ― 基本は3クラス

血圧の薬は種類が多く、「強い薬」「弱い薬」という順位があるように思われがちですが、実際はそうではありません。作用の仕方が違う薬があり、その方の体質や併せ持つ病気に合わせて選ぶ、というのが実際です。

最初に選ばれることが多いのは、次の3つのグループです。

ACE阻害薬・ARBは、血圧を上げる方向に働く体内のホルモン(レニン・アンジオテンシン系)の働きを抑える薬です。腎臓を保護する作用が期待できるため、腎臓の病気がある方、尿にたんぱく(アルブミン)が出ている方、心不全のある方では特に重要な選択肢になります。

長時間作用型のカルシウム拮抗薬は、血管の壁の筋肉をゆるめて血管を広げ、血圧を下げます。幅広い方に使いやすく、体質を選びにくいのが特長です。

サイアザイド系利尿薬は、腎臓から余分な塩分と水分を出すことで血圧を下げます。長い歴史のなかで有効性が確かめられてきた薬ですが、血液中の電解質(ナトリウムやカリウム)や尿酸の値が動くことがあるため、採血で確認しながら使います。

一方、β遮断薬は、心臓の拍動をおだやかにする薬です。以前は血圧の薬として広く使われましたが、現在は「すべての方の第一選択」とはされていません。心不全、狭心症や心筋梗塞のあと、脈が速くなる不整脈など、この薬が本来の力を発揮する病気をお持ちの方に対して選ばれます。使わないほうがよい薬という意味ではなく、選ぶ理由がはっきりしている場面で使う薬、ということです。

なお、ACE阻害薬とARBは似た働きをするため、この2つを同時に使うことは原則として避けます。血圧はより下がるものの、腎機能の悪化やカリウム上昇といった副作用が増えることが分かっているためです。

用語のはなし

  • アルブミン尿:本来なら尿に出ないはずのたんぱく質が漏れ出ている状態で、腎臓の傷みの早いサインとされます。
  • 電解質:ナトリウムやカリウムなど、体液に溶けて体の働きを支えているミネラルのことです。
  • 第一選択薬:治療を始めるときに、まず候補として検討される薬のことです。

スライド5|目標血圧 ― 日本・米国・欧州で見比べる

「血圧はいくつまで下げればよいのですか」というご質問を、よくいただきます。ここでは日本の目標値を軸に、米国・欧州の指針と並べて見ていきます。

日本(JSH2025)― 130/80mmHg未満に統一された

日本の目標値は、診察室で測った血圧が130/80mmHg未満、ご家庭で測った血圧が125/75mmHg未満です。

大きく変わったのは、この値が年齢や持病を問わず一本化された点です。従来のJSH2019では、75歳以上の方は140/90未満、といったように目標が分かれていました。今回それが統一されたのは、以前は下げすぎの害が心配されていた方々についても、130未満まで下げる利益のほうが上回るという研究成果が積み重なってきたためです。

ご家庭で測っている方は、診察室の130/80ではなく125/75のほうが目安になります。家庭の値が低めに設定されているのは、緊張のない環境で測るぶん、もともと低く出やすいからです。

米国(AHA/ACC 2025)― 同じく130/80mmHg未満

米国の目標も130/80mmHg未満で、日本と一致しています。「日本の基準だけが厳しくなったのでは」と受け取られることがありますが、そうではありません。目指す地点は、国際的にほぼ重なっています。

欧州(ESC 2024)― 収縮期120〜129mmHg

欧州は、治療を受けている多くの成人について、上の血圧を120〜129mmHgに収めることを目標としています。日本や米国よりやや低い設定ですが、そこには「無理なく続けられる範囲で」という条件が明確に添えられています。

数字は少し違っても、考え方は同じ

3つを並べると細かな差がありますが、根っこにある発想は共通しています。その方のリスクの大きさと、下げたときに体が耐えられるかどうか。この両方を見て決める、という立場です。

ここが、このページでいちばんお伝えしたい点です。
目標とは、数字を無理に下げることではありません。血圧を下げすぎると、立ち上がったときにふらつく(起立性低血圧)、転びやすくなる、だるさが強く出る、腎臓の働きが落ちる、血液中のカリウムが上がりすぎる、といったことが起こり得ます。
ご高齢の方や体力が落ちている方(フレイルの状態)では、こうした不利益が、血圧を下げて得られる利益を上回ることもあります。薬の数が増えること自体の負担も、判断材料のひとつです。

JSH2025でも、目標を統一する一方で、この点への注意ははっきりと書かれています。75歳以上の方については、お一人で通院できる状態か、介助が必要か、といった生活の状況に応じた別の目安が設けられており、全員に130/80を当てはめるわけではありません。

ですから診察室では、目標値をお伝えしたうえで、「そこまで下げて体調はどうか」を必ずうかがいます。ふらつきや強い疲労感を我慢して数字だけを合わせにいくことは、治療の目的から外れてしまいます。気になる症状があれば、遠慮なくお知らせください。

用語のはなし

  • 忍容性:その治療を、つらい副作用なく続けられるかどうかの度合いを指す言葉です。
  • 起立性低血圧:立ち上がったときに血圧が下がり、ふらつきや立ちくらみが起こる状態です。
  • フレイル:加齢によって心身の予備力が落ち、健康と要介護の中間にある状態を指します。
  • 収縮期血圧:血圧の上の数字のことです。心臓が縮んで血液を押し出したときの圧力を指します。

スライド6|明日から変える、3つ

最後に、日々の暮らしのなかで意識していただきたいことを3つにまとめます。

1. 測る

家庭で血圧を測り、「いつもの血圧」を把握してください。大切なのは1回の値ではなく、記録の積み重ねが描く流れです。診察室で測る年に数回の数字よりも、ご自宅で毎日測った記録のほうが、治療の判断にはずっと役に立ちます。

2. リスクで考える

血圧の数字だけを見て一喜一憂するのではなく、糖尿病、腎臓の状態、コレステロール、喫煙といった要素と合わせて、全体のリスクとして考えます。血圧が少し高めでも他に危険因子がなければ様子を見ることがありますし、逆に数値が同じでも早めに治療を始めることがあります。

3. 個別に決める

目標値は、指針の数字だけで決まるものではありません。その数字まで下げたときに無理なく過ごせるか、生活や仕事にどう影響するか、他にどんな病気をお持ちか。それらを重ねて、お一人ずつ決めていきます。

高血圧の治療が目指しているのは、血圧計の数字を小さくすることではなく、脳と心臓と腎臓を守ることです。この目的を共有できていれば、日々の測定も、通院も、服薬も、意味のある習慣として続けやすくなります。

補足|日本の指針 ― JSH2025では何が変わったか

ここまで各スライドの解説のなかでも触れてきましたが、最後にJSH2025の改訂内容そのものを整理しておきます。2025年8月、日本高血圧学会から6年ぶりの改訂版となる「高血圧管理・治療ガイドライン2025」が発表されました。

まず目を引くのが、名前の変化です。従来の「高血圧治療ガイドライン」から「高血圧管理・治療ガイドライン」へと改められました。これは、高血圧と診断されてから治すものではなく、そうなる前の段階から日常のなかで整えていくもの、という考え方への転換を表しています。診察室で医師が下げるものから、生活のなかでご自身が管理していくものへ、という重心の移動です。改訂の要点は、大きく4つに整理できます。

1. 診断の基準はそのまま、目標値は一本化された

まず押さえていただきたいのは、「高血圧かどうかを決める線」と「治療で目指す線」は別物だという点です。今回はこのうち後者だけが変わりました。

診断の基準は従来どおりで、診察室での血圧が140/90mmHg以上、家庭での血圧が135/85mmHg以上であれば高血圧とされます。ここは動いていません。

大きく変わったのは降圧目標です。診察室血圧で130/80mmHg未満、家庭血圧で125/75mmHg未満という値に統一されました。
従来のJSH2019では、75歳以上の方は140/90未満、といったように年齢や持病によって目標が分かれていたのですが、それが原則として全年齢で同じ値に一本化されたことになります。「まず140/90を目指し、達成できたら次に130/80へ」という段階的な中間目標も、なくなりました。

高齢の方にとっては一見厳しくなったように映るかもしれません。
ただし、これは全員を機械的に130/80まで下げるという意味ではありません。
めまいやふらつきがある場合、腎機能が低下している場合、フレイル(加齢によって心身の予備力が落ちた状態)が進んでいる場合などは、目標をゆるやかに調整することが明記されています。あくまで出発点としての目安が統一された、とお考えください。

なおこの130/80という値は、スライド5で紹介した米国の目標と一致します。日本と米国で、目指す地点はほぼ重なったことになります。

2. 生活習慣 ― 「減らす」に加えて「足す」という発想

食事については、減塩を1日6g未満に抑えるという従来の目標に加えて、カリウムを積極的に摂ることが強調されました。
カリウムは野菜、果物、海藻、豆類などに多く含まれるミネラルで、体内の余分なナトリウム(塩分)を尿として出す働きを助けます。
塩を減らすだけでなくカリウムを増やす、いわば引き算と足し算の両方で、ナトリウムとカリウムのバランスを整えるという考え方です。

ただし、腎臓の働きが落ちている方は例外です。カリウムがうまく排泄されずに血液中にたまり、不整脈などにつながることがあります。自己判断で野菜や果物を大幅に増やすのではなく、必ず主治医にご確認ください。

運動については、これまで中心だったウォーキングなどの有酸素運動に加えて、筋力トレーニング(レジスタンス運動)も血圧を下げる手段として位置づけられました。週2〜3回が目安とされています。ジムに通う必要はなく、椅子を使ったスクワットやかかと上げなど、自分の体重を使った運動から始めていただければ十分です。

3. 薬 ― β遮断薬が主要な選択肢に戻り、増やすタイミングが早くなった

スライド4で、β遮断薬は「全員の第一選択ではない」と説明しました。
これは米国・欧州の指針にもとづく整理ですが、JSH2025では少し位置づけが異なります。
有効性と安全性が改めて検討された結果、ビソプロロールやカルベジロールといった薬が、カルシウム拮抗薬・RA系阻害薬(ARB/ACE阻害薬)・利尿薬と並ぶ主要な降圧薬として位置づけ直されました。日本と海外とで評価が分かれている部分であり、実際にどの薬を使うかは、お一人ずつの状態を見て判断することになります。

もうひとつの変化が、薬を増やすタイミングです。1種類(ステップ1)で目標に届かない場合、長く様子を見るのではなく、早めに2種類(ステップ2)、3種類(ステップ3)へと進む流れが明確にされました。
「薬が増えた=悪化した」と受け取られがちですが、そうではありません。少量ずつ複数を組み合わせたほうが、1種類を増量するよりも効果が得られやすく、副作用も出にくいことが分かっています。
生活習慣の改善についても、指導を始めてから1か月ほどで効果を確認し、不十分であれば薬物治療に進む、という早めの評価が示されています。

4. デジタル技術の活用

高血圧治療用のアプリなど、デジタル技術を用いた支援も改訂点のひとつに挙げられました。
血圧の記録、減塩や運動の行動目標の管理、生活の振り返りといった機能を通じて、日々の取り組みを続けやすくする狙いがあります。
あくまで診療を補うものであり、これだけで治療が完結するわけではありませんが、記録を続けることが治療の柱になりつつあることの表れといえます。

患者さんとして押さえておきたいこと

細かな数値よりも、次の3点が実際の生活には効いてきます。

第一に、家庭血圧の目標は125/75mmHg未満です。
ご自宅で測られている方は、診察室の130/80ではなくこちらの数字が目安になります。家庭のほうが少し低めに設定されているのは、緊張のない環境で測るためです。

第二に、目標が統一されたからといって、全員が同じように下げるわけではありません。ふらつきや強い倦怠感が出ていれば、それは調整すべきサインです。我慢して数字だけを合わせる必要はありません。

第三に、今回の改訂は「早めに、生活から」という方向を向いています。高血圧と診断される前の段階から血圧を意識し、記録を残していくこと。それがいちばん確実な備えになります。

用語のはなし

  • JSH:日本高血圧学会(Japanese Society of Hypertension)の略称です。
  • RA系阻害薬:ARBとACE阻害薬をまとめた呼び方です。血圧を上げる方向に働くホルモンの仕組み(レニン・アンジオテンシン系)を抑える薬を指します。
  • カリウム:野菜や果物に多く含まれるミネラルで、余分な塩分を体の外に出す働きを助けます。
  • レジスタンス運動*:筋肉に負荷をかける運動、いわゆる筋力トレーニングのことです。

*この解説は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断や治療方針を示すものではありません。ご自身の血圧や薬について気になる点がありましたら、診察時にお尋ねください。

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