日本における高血圧に起因する死亡者数は年間10万人にも及びます。
さらに、日本人の死因の一位は悪性腫瘍、二位は心血管疾患、三位は脳血管疾患(脳卒中)ですが、このうち心血管死亡の約50%が高血圧に起因するものと考えられます。
現在までの大規模臨床研究の統計解析により、「血圧が高くなればなるほど心血管病になりやすくなる」という相関関係があります。
心血管病とは狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの疾患を指します。
このような疾患を一旦発症すると、心臓や脳の障害により、今までのような仕事ができなくなったり、命を落とす場合もあったりします。
従って、高血圧を放置すると死につながるような疾患になりやすくなる、とは決して誇張ではなく、統計的に示されている事実です。
では、「血圧が高いのに俺は健康だぞ」とおっしゃる方も時にいらっしゃいます。
この現象は統計の意味を考えるとわかりやすくなります。
血圧が高いと即全員がいきなり心血管疾患になるとは限らないのです。
確率が上がるということであり、一部には血圧が上がっても健康な人もいることでしょう。
しかしこの先何十年その人が心血管病を発症しないで一生を無事に終えるかどうかは、残念ながら医学的な保証が全くありません。
統計では確率が上がる、ということであっても、どっちに転ぶか、その人その人で病気のなりやすさも千差万別です。
ただし、一旦病気を発症してしまえば、その人は高血圧治療をしておかなかったことを悔やむに違いありません。
少なくとも高血圧治療をしておけば心血管病になる確率はかなり減っていたはずです。
過去の臨床試験のメタアナリシスの疫学データによると。収縮期血圧10mmHg、拡張期血圧5mmHgの低下により、心血管病リスクは、脳卒中で約40%(33%−48%)、冠動脈疾患で約20%(17%−27%)減少することが示されております(高血圧治療ガイドライン2014、日本高血圧学会編)
つまり、血圧治療をする、という意味はこうした心血管病にかかりにくくする有効な方法であり、今までの統計データにより示されている事実なのです。
高血圧はほとんどの方は症状がありません。しかし治療しなくてはいけないのは、こうした心血管病になる確率を減らすためです。
140/90 mmHg以上を高血圧といい、全て治療の対象です。
本邦における複数の臨床研究でも、140/90mmHg以上の母集団では、高血圧が心血管病死亡の危険因子となり、死亡率の上昇などが示されています。
家庭での血圧値も治療の参考になるといわれています。
なぜなら家庭血圧での予後予測能は診察室血圧よりも高いことが示されているからです。家庭血圧値での基準は下記のように、診察室の基準より収縮期、拡張期ともに5mmHg低いものとなっています。
また患者さんによっては「白衣高血圧」といい、診察室でのみ血圧が異常に高くなる状態があります。血圧の管理においては家庭で血圧計をご用意いただいて、測定する習慣をつけることが重要です。
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | ||
---|---|---|---|
診察室血圧 | 140以上 | かつ / または | 90以上 |
家庭血圧 | 135以上 | かつ / または | 85以上 |
リスクに応じて生活習慣の改善を図ります。
低リスク群では3カ月、中等リスク群では1カ月の間生活習慣の修正を試みます。
目標値に達しなかった場合には降圧薬の治療を開始します。日本のガイドラインでは140mmHg以下に血圧を下げる事を推奨しておりますが、海外のガイドラインなどでは130mmHg以下に下げる事を推奨していたりします。
特に糖尿病を合併している場合はより厳格な血圧管理がリスクを下げる為に必須となります。
生活習慣の修正には以下の6つが挙げられます
ただし、実際には生活習慣の修正では血圧値が目標値に下がる方は少ないです。
しかし生活習慣の是正により降圧薬の効果を高め、薬剤数と用量を減らすことができるとされます。
降圧治療が開始されても生活習慣の修正は維持することが必要です。
従って降圧治療における生活習慣の役割は重要ですが、最終的に目標値に達するかどうかは、患者さんの置かれた生活背景や生活習慣是正の施行状況によりまちまちです。
ただ実際には生活習慣の修正のみで降圧目標に達する方は少数であることが判明しています。
「高血圧は薬を飲まないといけないのでしょうか、生活習慣では治らないのでしょうか?」の答えとしては、経過観察の期間内に目標値に達しなかった場合には、投薬治療が推奨される、ということになります。
目標値に達しない期間が長くなればなるほどリスクが放置されることに等しい訳ですので、早急に投薬治療が勧められるのです。
高血圧治療のゴールは一生の間に心血管病にならないことです。
しかし、高血圧の治療だけではなく、脂質異常や糖尿病、喫煙など他の危険因子も合併していると、心血管病になりやすくなってしまいます。高血圧の治療だけしていれば全て十分というわけではありません。
それでは、高血圧治療はいつまで続けなくてはいけないのでしょうか?
例えば40代の方と60代の方では置かれているリスクの状況が全く異なります。下の図をご覧ください。
これは日本高血圧学会ガイドラインから転載したものです。
一番左が中壮年者(40−64歳)、中央が前期高齢者(65-74歳)、右が後期高齢者(75−89歳)のグラフで、グラフ内で血圧が高くなればなるほど心血管死亡のリスクが上がる、ということを示しています。
これら3つの年代を比べてみると、中壮年者(一番左)などの若い年代ではリスクが階段上に上がっていくということがわかります。前期高齢者(中央)では上がりが緩いですが、やはり右肩上がりのグラフです。後期高齢者(右)では、リスクの上昇は緩いです。
従って高齢になればなるほど、血圧が上がることのリスクは低減していく、ということがわかります。
それは高齢者の方が、その年齢までなにごともなく生きた分と、その後の余命が短いことから、高血圧そのものによるリスクは小さく算定されるわけです。このデータによれば75歳以上になれば血圧治療が不要になるか、と思われるかもしれません。
しかし一方で別のデータでは後期高齢者であっても血圧水準とともに心血管病死リスクが高くなる傾向があるとされています。
従って、高血圧治療の目的は長期にわたって、血圧を適正レベルに維持し、かつ血圧以外の危険因子も管理して、心血管病を予防することにあります。
よく、薬を一生飲まなければならない、などと言われます。
しかし、この言い方はおかしいと思います。薬を飲むか飲まないかは飽くまでも患者さんが決めることであり、またその時の状況で変わってくると思われます。
今降圧治療を開始したからといって、一生続けなければならない、というのは言い過ぎです。
人間、先のことなどわかりません。一切の治療を拒否して、自然のままに生きるという生き方もあると思います。それは人それぞれの人生観で決めるべきことです。降圧治療も同じです、治療にメリットがなければ、やめるという選択肢も出てくるのです。
しかし、医療者の目的は病気を治療したり予防したりすることです。
心血管病になりたくない、そのリスクを背負いたくない、という思いの方には、降圧治療をお勧めします。
心血管病になるであろうとわかっていて、降圧治療を勧めないのは、医療者の立場上あり得ません。現時点でのエビデンスでは、降圧治療の方にメリットがあるので、それに準じた手助けをさせていただきたいと思っております。
降圧薬治療に関しては、第一選択薬の定義を「積極的適応がない場合の高血圧に使用すべきもの」と明確化され、その上で、第一選択薬は以下の4つのお薬とされています。
大規模臨床試験やメタ解析の結果、糖尿病惹起作用などを総合的に勘案し、β遮断薬は第一選択薬から除外されました。
ただし、β遮断薬がエビデンスを持つ主要な降圧薬であることに変わりはないことを強調し、心疾患合併患者には積極的な適応となる場合があるという意見もあります。
近年増えているARBと利尿薬、ARBとCa拮抗薬といった配合剤も選択肢としてあり、血圧が中々下がらなくてもお薬の数を増やさずに治療する、という選択肢もあります。
現在のガイドラインでは積極的適応(合併症)のない高血圧には第一選択薬である「ARBまたはACE阻害薬(A)」「Ca拮抗薬(C)」「サイアザイド系利尿薬またはサイアザイド類似薬(D)」のいずれかで治療を開始することとなっております。
単剤で十分に降圧できない場合は、A+C、A+D、C+Dといった組み合わせの併用を検討します。
それでも目標血圧に達しない場合にはA+C+Dという3剤併用が提示されています。
3剤併用にもかかわらず、血圧コントロールが不良なままの治療抵抗性高血圧には、A+C+D+β遮断薬またはα遮断薬、抗アルドステロン薬、さらに他の種類の降圧薬を併用するという手順が示されています。
昨今、ARBが週刊誌などで「不必要な薬」として掲載されたりもしていますが、それは大きな間違いです。
お薬は実際どのような効果があるか、発売されてからも色々と試験がされ、検証されております。HOPE試験は、ACE阻害薬の臓器保護作用をはじめて証明した大規模臨床試験です。
ACE阻害薬はすべて米国食品医薬品局(FDA)から高血圧の適応が許可されていますが、心筋梗塞・脳卒中・心血管死の予防についてはramiprilのみが適応を得ており、その契機となったのがHOPE試験です。また、急性心筋梗塞患者における累積生存率について、7種類のACE阻害薬を比較した研究では、ramiprilが他のACE阻害薬よりも非常にすぐれた効果を示しています。
そのramiprilとARB(ミカルディス)を比較したのがONTARGET試験です。
主要評価項目である複合心血管イベント(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・うっ血性心不全による入院)について、ミカルディス80mg群はramipril10mg群と同等の複合心血管イベント抑制効果を示しました。
ONTARGET試験の結果により、ミカルディスはARBとして唯一、FDAから「ACE阻害薬に忍容性のない55歳以上の心血管イベントの高リスク患者における心筋梗塞・脳卒中・心血管死のリスク減少」の適応を取得しています。ONTARGET試験、TRANSCEND試験によって、ミカルディスの心保護効果、脳保護効果が証明されています。
つまり血圧をしっかり管理する為に、お薬を選んでおり、症状に応じてその選択をしています。
高血圧治療剤のミカルディスやアジルバなどにエビデンスがない、だから飲む必要はないといったフェイクニュースがメディアに取り上げられてますが、このニュースを見て自己判断でお薬をやめてしまわぬよう気をつけて頂き、心配な場合はかかりつけ医に相談するようにしましょう。
高血圧の薬は、一度飲みだすと一生飲み続けなければいけない、と考えている人が多いようです。
たしかに血圧を下げる薬は高血圧の原因を治すわけではありませんので、薬をやめると元に戻って高血圧になる可能性は大きくなります。
高血圧の患者さんで、降圧薬をやめることができる人はいますが、それには二つの条件が必要です。
一つは、薬を使っている条件下で血圧がしっかり正常に下がっていること、
もう一つは、減塩・運動・肥満是正など生活習慣の改善ができていることです。
もちろん、家庭血圧がはじめから正常で、診察室血圧だけが高い白衣高血圧では降圧薬は用いないので、家庭血圧を測定して確認することが重要です。
生活習慣の改善をしっかり行うと、T度の高血圧(140〜159 / 90〜99mmHg)では、1薬剤で低用量の場合、20 〜30%の患者さんで降圧薬をやめることができます。
2薬剤以上を飲んでいる場合でも薬の減量が可能となります。一方で、生活習慣が悪くなれば高血圧に戻ります。また加齢とともに血圧は上昇しますので、血圧の定期的なチェックが必要です。
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