2021〜2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方

2021〜2022年シーズンもインフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨

2019年12月に中国湖北省武漢にて発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、急速に世界中に拡散し、2021年9月中旬の段階で、全世界で感染者は2億2400万人を超え、死亡者は約 460万人と報告されています。

わが国においては、2020年1月15日に最初の患者が報告されて以降、数次の流行の波を繰り返し、2021年9月12日の時点で感染者は累計で166万人を超え、死亡者は17046人となっています。

一方、2019-2020年シーズンのインフルエンザについては、2019年末から2020年初頭にかけてA(H1N1)pdmの小流行がみられ、2020年に入ってB型が散見されたものの、COVID-19の流行が始まった2月以降は、急速に患者報告数が減少しました。

しかしながら、2020年冬季にはインフルエンザとCOVID-19との同時流行も危惧され、両者の鑑別が問題となりました。

日本感染症学会では、今冬のインフルエンザとCOVID-19 に備えて」と題する提言を発表し、冬季に発熱や上気道炎症状を呈する患者に対しては、インフルエンザとCOVID-19の両方の検査を検討することを推奨しました。

実臨床では、インフルエンザとSARS-CoV-2の両方を同時に検査する場合のみならず、どちらかを強く疑って検査を行うこともあると思われます。

これら場合における診療検査の進め方の考え方のフローチャートを図に示します。

さて、インフルエンザ流行は本年度2021-2022年シーズンについてはどうでしょうか。

北半球の冬季のインフルエンザ流行の予測をするうえで、南半球の状況は参考になります。

オーストラリアからの報告によると、2021年流行シーズンにおいて、インフルエンザ確定患者数は昨年同様きわめて少数です。

このことより、2021年冬季は北半球での流行を認めないのではないかとも考えられます。

ところが一方、アジアの亜熱帯地域においては様相が異なります。WHOからの報告によると、バングラデシュでは、2020年後半にA(H3N2)、2021年初夏よりB(ビクトリア)の流行を認めています。

また、インドでも、2021年夏季にA(H3N2)の流行を認めています。

これらの国々では、インフルエンザワクチン接種が普及しておらず、社会全体のインフルエンザに対する免疫が低かったと思われます。ただし小流行を繰り返すことで、これらの地域でウイルスが保存され、今後国境を越えた人の移動が再開されれば、日本を含め、世界中へウイルスが拡散される懸念があります。

前シーズン、インフルエンザに罹患した人は極めて少数であったため、社会全体の集団免疫が形成されていないと考えられます。そのような状況下で、海外からウイルスが持ち込まれれば大きな流行を起こす可能性もあります。

英国政府は、今年のインフルエンザは早期に流行が始まり、昨年流行がなかったために例年の1.5倍の大きさの流行になる可能性があるとして、インフルエンザワクチン接種を呼び掛けています。

以上の点を鑑みて、感染症学界では、本年度2021-2022年シーズンにおいても、インフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨しています。

インフルエンザワクチン接種の時期

インフルエンザシーズンの時期と現行の不活化ワクチン効果の減弱11)を考慮すると、ワクチン接種は理想的には10月末までに行うことが推奨されています。

一方、わが国では、現時点で、COVID-19ワクチンとその他のワクチンとは、互いに片方のワクチンを受けてから2週間後に接種することになります。

COVID-19ワクチンをまだ接種していない人には、まずそちらを優先せざるを得ないかと思われますが、並行してインフルエンザワクチンの接種もすみやかに行って下さい。

特定の集団へのインフルエンザワクチン接種について

従来から、下記の因子を有する人は、インフルエンザに罹患した場合の合併症のリスクが高いとされています。

  • 6か月以上5歳未満
  • 65歳以上(50歳以上とするものもある)
  • 慢性呼吸器疾患(気管支喘息やCOPDなど)
  • 心血管疾患(高血圧単独を除く)
  • 慢性腎・肝・血液・代謝(糖尿病など)疾患
  • 神経筋疾患(運動麻痺、痙攣、嚥下障害を含む)
  • 免疫抑制状態(HIVや薬剤によるものを含む)
  • 妊婦
  • 長期療養施設の入所者
  • 著しい肥満
  • アスピリンの長期投与を受けている者
  • 担がん患者

1)高齢者

現在、わが国の高齢者の大半はすでにCOVID-19ワクチンの2回接種を完了していますので、10月以降にインフルエンザワクチンの供給が始まり次第、速やかに接種を行うことが望ましいと考えます。

COVID-19に対するブースターとしての3回目のワクチン接種も検討されていますが、インフルエンザワクチンを優先すべきであると考えます。

なお、高齢者はワクチン効果の減弱が起こりやすく、特にA(H3N2)に対して顕著であることが報告されています。

2)小児

6か月以上5歳未満の小児はハイリスク群として扱われますが、インフルエンザワクチンは6か月以上の全年齢小児を接種対象にすることが推奨されています。

今後、12歳以上にCOVID-19ワクチン接種が拡がると、両方のワクチンを近接した時期に接種することになります。特に12歳では、COVID-19ワクチン2回、インフルエンザワクチン2回の計4回のワクチン接種を要し、接種時期の調整を検討する必要があります。

3)妊婦

妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種により、母体および新生児のインフルエンザ感染を減らすことが可能です。

4)COVID-19罹患者または濃厚接触者

COVID-19罹患者または濃厚接触者へのインフルエンザワクチン接種については、以下の方針を推奨いたします。

  • COVID-19に罹患したものの、無症状あるいは軽症で自宅またはホテルで待機中の人は、観察期間が終了してから、インフルエンザワクチンの接種を行います。
  • COVID-19に罹患して、中等症以上の症状で入院している人は、観察期間が終了し、かつ症状の軽快を認め、急性期症状から完全に回復してから接種を行います。
  • COVID-19患者の濃厚接触者と認定された方は、観察期間が終了してから接種を行います。

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