クローン病・潰瘍性大腸炎について

炎症性腸疾患には潰瘍性大腸炎とクローン病があります。
それぞれ原因は不明で、難病に指定されています。
20歳前後の若年期に発症し易い特徴があります。

潰瘍性大腸炎

直腸から連続性に奥に広がり、主に大腸の粘膜が侵される疾患です。
その炎症の起きる範囲から下記の3種類に分けられます。

  • 直腸炎型
  • 左結腸炎型
  • 全大腸炎型

潰瘍性大腸炎の原因

中国やアフリカなどの発展途上国では、潰瘍性大腸炎の患者さんが少ないため、小さい頃に清潔な食べ物しか食べてこなかったことが原因という説が一部でありますが、原因は不明です。

原因不明だが免疫機能に異常

潰瘍性大腸炎の原因については、まだはっきりとわかっていません。
しかし、最近の研究で、潰瘍性大腸炎患者さんの腸管では免疫に異常がみられ、そのことで自分の腸を傷つけてしまう(炎症が起こる)ことがわかってきました。

炎症にはさまざまな生体内物質が関与しますが、特に重要な役割を果たしているのが、TNFα(ティー・エヌ・エフ・アルファ)というサイトカインであることがわかりました。サイトカインはホルモンのような物質で、ごく微量でも生体内で大きな作用を及ぼします。

TNFαが大腸の炎症に関与

潰瘍性大腸炎の患者さんでは、TNFαが大量につくり出され、このTNFαが大腸で炎症を引き起こしていることがわかっています。この炎症によって、潰瘍などができ、下痢・軟便や血便などの症状があらわれます。

潰瘍性大腸炎を疑う症状とは?

潰瘍性大腸炎は、自己免疫疾患といって自分の免疫が異物と勘違いして自分の腸の壁を攻撃し、結果、大腸の粘膜の炎症が一面に広がり、びらん(ただれ)や潰瘍ができてくる慢性の病気です。

潰瘍性大腸炎において新たに注目される新成分SGS-07とは?

以下の症状が出た場合、潰瘍性大腸炎の疑いがあります。

下痢

とにかくトイレの回数が増えます。
次第に下痢の症状が出て、多い人だと1日20回以上もトイレに駆け込むことがあります。
下痢の症状が出始めた場合、血が混ざっていると潰瘍性大腸炎を疑う必要があります。

血便

血便は、潰瘍性大腸炎の症状で最も多くみられる症状です。痔の症状と間違えがちですが、潰瘍性大腸炎の場合は血が濃く赤黒い色をしています。さらに、便を確認すると白っぽく濁った粘液が付着していることがあります。

腹痛

腹痛も下痢・血便と共に潰瘍性大腸炎で頻繁に見られる症状です。
主に、排便前に下腹部に痛みが現れます。
症状がひどい場合には排便前でなくても、ひどい痙攣性の痛みが起こることもあります。

発熱

潰瘍性大腸炎の症状がひどくなると出てくる症状の一つです。
ゆうに38℃を超える熱が出ることもあります。

食欲不振、体重減少

症状がひどくなると次第に食欲がなくなっていき、体重減少につながります。

潰瘍性大腸炎は、未だ原因がはっきりと分かっておらず世間的には完治も難しいと言われています。
厚生省から「特定疾患(難病)」に指定されている病気の一つです。

治療

薬剤(サラゾピリンやペンタサ、ステロイドホルモン)の内服、坐薬、浣腸と食事療法などを行います。効果のない場合は、免疫抑制剤や白血球除去療法などを行うこともあります。現在では、外来で、白血球除去術を行えるようになり、とても有効です。

重症例や劇症タイプでは、手術により大腸の摘出手術を行います。

抗TNFα抗体製剤
主な薬剤 インフリキシマブ(注射剤) 製品名レミケードR
アダリブマブ(注射剤) 製品名ヒュミラR
ゴリムマブ(注射剤) 製品名シンポニーR
作用 潰瘍性大腸炎の炎症に直接関与している、TNFαという物質の働きを抑える薬剤です。この製剤はTNFαを作り出す細胞にも作用し、過剰な産生をストップさせる働きもあります。
特徴 他の治療で十分な効果が得られない患者さんに対し、高い改善効果が期待できます。
抗TNFα抗体製剤 レミケードR

レミケードR米国で開発された薬剤で、潰瘍性大腸炎の症状を改善するとともに、潰瘍や粘膜の損傷を治す効果があり、高い評価を得ています。現在、日本を含む世界100カ国以上で発売され、各種疾患で220万人の患者さんに使用されています(2014年8月現在)。

日本でも2002年にクローン病の治療薬として認可され、その翌年、関節リウマチ、その後、ベーチェット病(網膜ぶどう膜炎、腸管型・血管型・神経型)、乾癬、強直性脊椎炎、潰瘍性大腸炎、および川崎病に対しても使用が認められ、すでに約10万人以上の患者さんに投与されています(2015年12月)。潰瘍性大腸炎の治療薬としては、2010年6月に認可されました。

レミケードRは炎症の原因であるTNFαに対して、次のように作用し、その働きを抑え、効果を発揮します。

抗TNFα抗体製剤 レミケードR
約2カ月に1回、病院で点滴

レミケードRは、医療機関で点滴によって投与する薬です。

初めての点滴の後、2回目の点滴は2週間後に、3回目の点滴はその4週間後(初めての点滴から6週間後)に行います。以降は、8週間おき(約2カ月に1回)の点滴となります。

【予想される主な副作用】

レミケードRの点滴中または点滴終了後に、発熱、頭痛、発疹などの症状があらわれることがあります。もし、点滴中や点滴終了後に体に何か異常を感じた時は、遠慮せずに主治医や看護師に伝えてください。

【重要な副作用】

  • 感染症[肺炎、結核、敗血症、日和見感染など]
  • 遅発性過敏症
  • 脱随疾患
  • 間質性肺炎
  • 抗dsDNA抗体陽性化に伴うループス様症候群
  • 肝機能異常、血液障害[白血球減少、好中球減少]
  • 横紋筋融解症

【安全性に関わるその他の情報】

  • 悪性腫瘍
  • 伝達性海綿状脳症(TSE)
  • ワクチン接種
抗TNFα抗体製剤 シンポニーR

潰瘍性大腸炎は、体内のTNFα※(ティー・エヌ・エフ・アルファ:腫瘍壊死因子)が大きくかかわっていることがわかってきました。
シンポニーRはこのTNFαのはたらきを抑えることにより、潰瘍性大腸炎の症状を軽減、改善するためのお薬です。

※TNFαとは?
TNFαは免疫にかかわっている物質の一つで、普段は細菌や異物から体を守る大切な役割を持っていますが、過剰になるとからだの細胞や臓器に作用して、炎症を引き起こしたり悪化させたりする原因にもなります。

シンポニーRは、最先端のバイオ技術を駆使して作られた
生物学的製剤(抗体製剤)です。

シンポニーRは生物がつくりだす抗体を利用した医薬品です。

抗体とは、ワクチンが、特定のウイルスだけに結合するように、特定の異物(抗原)に結合して、その異物を体内から取り除くタンパク質です。
生物学的製剤(抗体製剤)は、このような抗体の働きに着目して体内で悪影響をあたえる特定の物質だけを制御して、病気を治療することを目的として開発されました。

生物学的製剤の開発の歴史とシンポニーRの構造と製法(トランスジェニック法)

生物学的製剤(抗体製剤)の創製技術は、よりヒトに近い抗体製剤を目指して開発が進められてきました。
シンポニーRは生体の自然な免疫反応を利用した「トランスジェニック法」※という方法で、100%ヒト抗体遺伝子からつくられたヒト型TNFα抗体です。

Tracey D, et al. Pharmacology & Therapeutics. 2008;117:244-279(改変)
Lonberg N. Nature Biotech. 2005;9:1117-1125(改変)

抗TNFα抗体製剤 シンポニーR
4週に1回、病院で皮下注射

投与間隔は、初回投与後、2回目の投与は2週間後、以降は4週間に1回です。

シンポニーRを注射する箇所

医療従事者(医師、看護師など)が皮下注射をします。

  • 二の腕(上腕部)、おなか、太もも(大腿部)
    のいずれかの箇所に注射します。
  • 次回の注射部位は、前回と別の箇所にします

【よく見られる副作用】

  • 注射部位反応
  • 感染症

【可能性のある重要な副作用】

  • 感染症(結核、敗血症、肺炎など)
  • 間質性肺炎
  • 脱髄疾患
  • 血液障害
  • うっ血性心不全
  • アレルギー反応
  • B型肝炎の再燃
  • 関節痛、筋肉痛、皮疹(ループス様症候群)
  • 悪性腫瘍
  • ラテックスアレルギー
抗TNFα抗体製剤 ヒュミラR

慢性的な炎症を引き起こす「TNFα」

免疫にかかわっている物質はいろいろありますが,大きな役割を担っているのが「TNFα※」と呼ばれるたん白質です.
TNFαは,免疫や炎症に関係するサイトカインの一種で,身体を細菌や異物から守る大切な働きをしています.しかし, TNFαが過剰に放出されると,さまざまな臓器や細胞に作用して,炎症を引き起こしたり悪化させる原因となります.

「ヒュミラR」は,炎症の原因となるTNFαの働きを抑えることで症状を改善します

ヒュミラRは人間に存在する抗体によく似たお薬です

抗体とは,特定の異物(抗原)に特異的に結合して,その異物を体内から除去する物質をいいます。
こうした抗体の働きに着目して開発されたのが「抗体製剤」です。
以前は,マウスのたん白質を含んだ抗体製剤しか作れませんでしたが,最近では遺伝子工学技術の進歩により,マウスのたんぱく質を含まない抗体( これを専門的に「ヒト型」といいます)を作れるようになりました

抗TNFα抗体製剤 ヒュミラR
2週間に1回、皮下注射

ヒュミラRは,初回は160mg,2週間後に80mg,その後は2週間ごとに40mgを注射します。

自己注射による治療も可能です

◆ヒュミラRの投与方法

  • 薬の入った注射器(シリンジといいます)で皮下注射します(1〜2 分程度)
  • 医師の許可があれば,病院で注射指導を受けたあと,患者さま本人が注射する「自己注射」も可能です

【予想される主な副作用】

  • 注射部位反応
  • 感染症

【特に注意すべき副作用】

  • 感染症(結核,敗血症,肺炎など)
  • アレルギー症状
  • アナフィラキシーショック
  • 血液障害
  • 間質性肺炎
  • ループス様症候群
  • 脱髄疾患
  • 劇症肝炎,肝機能障害,黄疸,肝不全

【その他の注意事項】

  • 悪性腫瘍
  • ワクチン接種
  • B型肝炎
  • 伝達性海綿状脳症(TSE)

どのような患者さんに使われますか?

これまでの治療(5-ASA製剤、ステロイド、チオプリン製剤等)で十分な効果が得られない患者さん、またはステロイドを長期間服用し離脱が図れない患者さんが対象となります。

特に、下痢・軟便や血便などの自覚症状のある患者さん、その症状により外出するなどの日常生活に制限を感じている患者さんなど、生活の質(QOL:Quality of life)が低下している患者さんには、抗TNF抗体製剤による治療が考慮されます。

抗TNFα抗体製剤を投与できない患者さん

次の方は投与することができません。該当する方は必ず主治医に伝えてください。

  • 現在、重い感染症にかかっている方
  • 現在、活動性の結核にかかっている方
  • 過去にレミケードR、シンポニーR、ヒュミラRまたはマウス由来蛋白質を含む他の医薬品の投与を受けて、過敏症を起こしたことのある方
  • 脱髄疾患(多発性硬化症など)にかかっている方、もしくは過去にかかったことのある方
  • うっ血性心不全の方

また、以下の病気にかかったことのある方は、医師にお申し出ください。抗TNFα抗体製剤の治療が受けられない場合があります。

医療費の助成制度について
(抗TNF抗体製剤を投与中の患者さん)

額な医療費が長期間にわたる場合、自己負担上限額がさらに低くなります。
一般所得または上位所得の患者さんで、月ごとの医療費総額が50,000円を超える月(自己負担が2 割の場合、自己負担が10,000円を超える月)が年間6回以上あった場合は、それ以降の自己負担上限額がさらに低くなります。(「高額かつ長期」といいます)

この「高額かつ長期」の制度は、自動的に適用になりません。
上記の条件に該当した場合、自治体の窓口への申請手続が改めて必要になります。

症状が治まっても完治ではないのか?

一時症状が治まってもまた再発するケースが多くあります。
症状が治まることを「緩解(かんかい)」
症状が再発することを「再燃(さいねん)」と言います。

潰瘍性大腸炎の経過は、ほとんどが緩解と再燃を繰り返します

緩解期と再燃期の症状を繰り返すことを、「再燃緩解型(さいねんかんかいがた)」といい潰瘍性大腸炎の患者の約80%を占めます。
緩解期と再燃期の割合は、大体7対3と言われており、症状が治まった状態が継続する割合の方が大幅に多いとわかります。

根本的な治療法がまだ見付かっていないため、緩解と再燃の症状と長期にわたり付き合っていくことになります。

クローン病

大腸や小腸の壁に深い特徴的な深い潰瘍を作り、周囲の臓器と瘻孔を形成したり、瘢痕性に腸が細くなり通過障害を起こしたりします。
腹痛、下痢が非常にひどく、まれに出血も認めます。高率に肛門疾患が合併し、非常に複雑な痔瘻となったり、難治性の肛門潰瘍を形成したりします。

治療

食事栄養の制限(成分栄養などの摂取)と薬剤(サラゾピリンやペンタサ、ステロイドホルモン)の内服を行います。
外科的には肛門の周囲に膿瘍ができて切開したり、通過障害のある場所を広げたりします。
現在は、レミケードの点滴が特効薬となっています。

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