ヘリコバクターピロリ除菌外来

当院におきまして、ヘリコバクターピロリ除菌外来を行っております。
ピロリ菌に関して気になる方は何なりと申しつけ下さい。

40代以降の日本人75%が感染

米国医学会の大元締で膨大な研究費を握る米国立衛生研究所(NIH)の勧告やガイドラインは米国だけでなく、世界の医学界にも大きな影響力を持っています。

1994年、そのNIHが消化性潰瘍(かいよう)とH・ピロリ菌に関して次のような統一見解を発表しました。
「H・ピロリ感染潰瘍患者は初発・再発に関わらず、胃酸分泌抑制剤に加えて抗菌剤による治療が要求される。」統一見解は明確にH・ピロリの除菌が必要であると宣言しました。

臨床医、特に消化管を専門にする臨床医の間ではよく知られていた消化性潰瘍とH・ピロリの関係に一般マスコミが反応したのはこのことからです。
消化性潰瘍という一般にもなじみの深い病気であること、H・ピロリ菌の感染者が多いことが医療マスコミを色めき立たせました。

日本におけるH・ピロリ菌と消化器疾患に関する研究をリードする一人、浅香正博先生(北海道大学病院院長を経て現北海道医療大学学長)らの疫学調査によれば、40歳以降の日本人では約75%がH・ピロリ感染者です。

フランスや英国などの感染率を同じ年代で比較すると、20%程度の感染率で明らかに日本人感染者が多くなっています。
一方、アジア・アフリカ諸国では20歳ぐらいから70~80%の高い感染率を示しています。

こうした結果から浅香先生は、H・ピロリ菌の感染率は環境衛生に負うところが大きいと指摘しています。
つまり、上下水道が普及していない地域では、ふん便−経口感染によりH・ピロリ菌が感染したのではないかと推論しており、つまりふん便とともに体内から排泄されたH・ピロリ菌が飲料水などに混入して別の人の体内に入った可能性が大きいのです。

そう考えると、上下水道が整備される前、すなわち第二次世界大戦が終わってから10年間以内に生まれた世代に感染者が多いことも頷けます。
事実、20歳から29歳までの健康な日本人を調べると25%の感染率しかありません。
しかも、この感染率は若くなればなるほど下がり、0~9歳ではわずかに5.3%です。中年以降に消化性潰瘍が多いのは、中間管理職としてのストレスが主因という説はこの面からも崩れつつあるのです。
そして日本人全体の感染率は、2030年頃までにはほかの先進国並みに低くなることが予想されています。

ストレスだけでは潰瘍できぬ

5000人以上が死亡し、数十万人の被災者を出した1995年の関西大震災の日から1年たち、神戸復興の兆しも見え始めたころ、全国各地から傷病者救援のために多くの医療人が神戸に駆けつけましたが、その当時の地元・兵庫県の医師は、自ら被災しながらもピロリ菌感染と消化性潰瘍に関しての研究テーマを追求しました。

そして、ストレスだけでは消化性潰瘍は再発しにくいことを突き止めたのです。

長い間、消化性潰瘍はストレスが主因と考えられ、事実、潰瘍患者の多くは職場や家庭でストレスにさらされていると訴えますが、被災者の被災ストレスに比べれば物の数ではありません。

名古屋市で開かれた第37回日本消化器病学会では、そんな被災者を対象にした研究結果が発表されました。

地元大学病院の医師による研究で、震災ストレスが消化性潰瘍にどのような影響を与えるかを検討したものです。

それによると、H・ピロリ菌が証明されなかった人の場合は被災ストレスがあっても消化性潰瘍の再発はなかったか、H・ピロリ菌陽性例では全例が消化性潰瘍を再発したというのです。

また、震度が大きい地域では、前年よりも胃潰瘍の再発が多く、再発例ではH・ピロリ陽性率が高いという成績も発表されました。

消化性潰瘍とH・ピロリ菌の関係については多くの臨床データがその関係性を裏付けていますが、なお、ストレスが消化性潰瘍発症させるという説は根強くありました。

しかし、神戸市民の偶発的で貴重な経験が、この論争にピリオドを打ちました。

神戸市民が体験したストレスは強烈でしたが、それだけでは消化性潰瘍は発症しにくかったのです。

地元・神戸の医師の研究は、H・ピロリ菌による胃粘膜の炎症という下地にストレスが加わったとき潰瘍はできるということを示しました。

では、胃癌はどうでしょうか。

慢性胃炎に見られる胃粘膜の萎縮性変化は加齢に伴う老化現象と言われてきましたが、WHO(世界保健機関)の国際癌研究機関は1994年、すでにH・ピロリ菌は「確実な発癌要因」と認定しました。

現在ではピロリ菌は、ごくわずかなデータを除き、ピロリ菌感染がある場合のみ胃癌発症につながることが定説になっています。

胃がんとの関連 限りないクロ

「研究者レベルでは、もう消化性潰瘍の時代はおわった。これからは胃癌との関連性が追及されますよ。」
H・ピロリ菌と胃・十二指腸疾患との関連でよく耳にする言葉です。

この言葉を裏付けるかのように、1994年には世界保健機関(WHO)の国際癌研究機関が「H・ピロリ菌は確実な発癌要因である」と認定しました。
同機関は「発癌要因」を5つのグループに分類しています。

グループ 程度
1 確実な発癌要因・・・ピロリ菌など
2 非常に強く疑われるもの
3 強く疑われるもの
4 判定不能なもの
5 発癌要因ではない

以上のように第2〜5グループまで徐々に発癌性を否定していきます。

つまりH・ピロリ菌は最も発癌性の強い第1グループに認定されたのです。
ちなみに第1グループに属するものとしては、肺癌や皮膚癌の要因になるタールやヒ素、肺癌要因としてのアスベスト、白血病要因としてのベンゼンなどがあります。

WHOが発癌要因として認定した根拠に、H・ピロリ感染陽性率と胃癌の死亡率との間に高い相関が認められるとする疫学データがあります。また、慢性胃炎の主な原因がH・ピロリ菌であることがほぼ確実であること、慢性胃炎の終末像が胃癌という説に確実性が増した点などを挙げています。

とはいっても、H・ピロリ菌と強く関連づけられているのは胃癌の中でも分化型胃癌と呼ばれるものとMALTリンパ腫と呼ばれる胃悪性リンパ腫があります。
分化型胃癌の前癌病変は胃粘膜が腸のそれに似てくる腸上皮化生と呼ばれる状態で、この腸上皮化生は慢性(萎縮性)胃炎に引き続いて起こると考えられています。

日本は世界の中でも胃癌の発生率、死亡率が高い国であり、H・ピロリ菌の感染率も欧米と比べると高くなっていますが、この点だけをとって除菌治療(H・ピロリ菌を抗生物質で排除する治療)に飛びつくのは早計です。

なぜなら、胃癌の発生要因はH・ピロリ菌だけではなく、ほかにもあるからです。また、H・ピロリ菌陽性者がすべて分化型胃癌になるわけでもありません。喫煙者がすべて肺癌になるわけではないのと同じです。

ただし、ピロリ菌感染により鳥肌上胃炎とよばれる状態になっている方は未分化型胃癌に特になりやすく、なかでもsignet ring cell(印環細胞)と呼ばれている胃癌細胞の発生母地になり、スキルス胃癌へと発展してしまう例もあり、ピロリ菌の除菌が特に勧められます。

鳥肌状胃炎

ピロリ菌に初めて感染したときに、体質によって過剰な免疫学的反応が起こることがあります。

この反応によって、胃の粘膜下に、『リンパ球』が球状に集まった「リンパ小節」が形成されることで、胃に鳥肌が立ったような状態になるとされています。

上腹部の痛み、胸やけ、げっぷなどが症状として現れます。
『慢性胃炎』に症状が似ているため、単なる胃炎だと思って放置すると重症化してしまうケースもあります。

スキルス胃癌

胃がんに多い組織型である腺がんの1つ。

「未分化型」という悪性度が高い(がん細胞の増殖速度が早い)種類であり、胃壁の中で広く浸潤していき、腹膜播種(おなかの中でがん細胞をばらまく状態)を起こしやすいことが知られています。

ピロリ菌について

ピロリ菌なんてかわいい名前がついていますが、正式名は’ヘリコバクター・ピロリ’。ヘリコとは「らせん」とか「旋回」という意味。ヘリコプターのヘリコと同じです。ひげの部分も回転させて移動します。

バクターとはバクテリア(細菌)。ピロリとは胃の出口(幽門)をさす「ピロルス」からきています。

この菌は胃の幽門部から初めて見つかりました。ピロリ菌の最も大きな特徴は、酸素の存在する大気中では発育しないことで、酸素にさらされると徐々に死滅します。

乾燥にも弱く、グラム陰性桿菌に分類されます。大きさは0.5 × 2.5〜4.0μmで、数本のべん毛を持ち、胃の中を移動します。

ピロリ菌が強酸性下の胃の中で生育できるのは、胃の中にある尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、アンモニアで酸を中和することにより、自分の身の周りの酸を和らげて生きています。

ピロリ菌発見の歴史

西オーストラリア大学のロビン・ウォーレン名誉教授とバリー・マーシャル教授がヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)を発見し、2005年のノーベル医学生理学賞を受賞しました。

当時、ロイヤルパース病院の病理医だったウォーレンは1979年、胃炎患者の胃粘膜に小さな曲がった未知の細菌(ピロリ菌)を発見。

その後消化器内科研修医マーシャルとの共同研究により、100人の患者の組織を調べた結果、胃炎や胃・十二指腸潰瘍患っているほとんど全ての患者でピロリ菌を確認しました。

そして試行錯誤の末、1982年にはピロリ菌の分離培養に成功しました。
マーシャル自身がピロリ菌を飲む実験により急性胃炎が起こることを確かめたエピソードは有名な話です。それまで消化性潰瘍などはストレスや生活習慣が主たる原因と考えられておりましたが、これにより、胃炎や 胃・十二指腸潰瘍はピロリ菌の感染が引き金になることが明らかとなりました。

この発見はピロリ菌を除去する除菌治療へとつながり、胃がんや再発を繰り返す胃・十二指腸潰瘍の治療に革命をもたらしました。

ピロリ菌の感染について

ピロリ菌は幼年期に衛生環境が良くなかった年代に感染している人が多く、環境の整った現代では、感染している人の数が低下しています。
また、乳幼児期に親族から口を介して感染している場合もあります。

ピロリ菌が原因の病気

ピロリ菌に感染したからといって、潰瘍や胃癌が必ず発症するわけではありません。
しかし、感染したほとんどの人に胃炎がおこります。除菌しない限り、ピロリ菌は胃の中にすみ続け慢性的炎症が続き、胃の粘膜を防御する力が弱まり、ストレスや塩分の多い食事、発癌物質などの攻撃を受けやすい無防備な状態となります。保険診療で治療できる疾患もありますので医師にご相談ください。

胃炎

胃炎には急性胃炎と慢性胃炎があります。
急性胃炎はアルコールや香辛料・鎮痛薬などの影響が原因といわれています。慢性胃炎の多くはピロリ菌の持続感染が原因で、胃の粘膜に炎症を起こします。

胃・十二指腸潰瘍

胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、ピロリ菌感染により胃粘液が酸の影響を受けで弱まり、胃や十二指腸の粘膜が傷ついて深くえぐられた状態のことです。

胃がん

胃がんは、胃粘膜内の細胞が、何らかの原因でがん細胞になり、増殖を繰り返す状態です。
胃がんの原因は喫煙や食生活などの生活習慣や遺伝の影響があると言われていますが、ピロリ菌感染が発生のリスクを高めるという報告があります。

その他の病気について

その他の病気として、胃MALTリンパ腫・免疫性(特発性)血小板減少性(ITP)・早期胃がんの内視鏡的治療を受けた方やディスペプシア症状(みぞおち辺りの痛み・焼ける感じ、食後の胃もたれ、食事中に胃が充満した感じとなり、最後まで食事を摂取できない状態)がある方は、ピロリ菌の除菌治療が勧められてます。かかりつけの病院で相談しましょう。

ピロリ菌の検査

どんな症状があったらピロリ菌の検査を受ければいいの?

胃・十二指腸潰瘍の経験のある方や、再発をくりかえす方や、胃炎の方、胃MALTリンパ腫の方や免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病(ITP)の方、早期胃がんの内視鏡的治療を受けた後の方は、健康保険で検査を受けることが出来ます。
この他、胃がん家系でご心配な方や、なんとなく胃の具合がいつも悪い方などは医師にご相談ください。人間ドックや検診などで希望すれば自費で検査を受けることも出来ます。

ピロリ菌の除菌治療

ピロリ菌の除菌治療には、胃酸の分泌を抑制するお薬と2種類の抗生物質の3つのお薬が用いられます。
この三種類のお薬を一週間服用することで、約8-9割の方は除菌に成功すると報告されています。そして場合に応じて胃の粘膜を保護する薬剤を併用します。

除菌薬服用後の判定検査の重要性

除菌薬服用後、胃の中に本当にピロリ菌がいないのかを知ることはとても重要です。なかには一度で除菌できない場合もあります。除菌後の判定検査を受診し、ピロリ菌の有無を確認しましょう。

除菌後のフォローアップ

除菌に成功したからといって、胃がんなどの病気にならないわけではありません。
ピロリ菌に感染している期間が長いと、胃の粘膜が正常に戻るのに時間がかかるからです。除菌後も定期的に内視鏡検査などを受け、胃の状態を確認しましょう。

町田市でのABC健診について
(胃がんリスク検診)2018年5月25日から2019年2月28日まで

町田市では費用800円で血液検査を行い、胃の粘膜に生息するピロリ菌の感染の有無と、胃粘膜の萎縮度(ペプシノゲン判定)を調べ、一生の間に胃がんなどの胃疾患に罹るリスクを判定する検査を実施することが可能です。

対象

町田市に住民票があり、職場等で胃がんリスク検診(ABC検診)の機会がない、35歳以上の方

※年齢について
胃がんリスク検診(ABC検診)は、年度内に35歳以上になる方(お誕生日が1984(昭和59)年3月31日以前の方)が対象となります。
対象年齢は、「今年度末(2019年3月31日)時点での年齢」です。
例えば、現在34歳の方でも、3月31日までのお誕生日で35歳になられる方は「今年度35歳」となり、お誕生日を迎える前でも実施期間内に受けることができます。

※受けられない方

  • 1.過去に胃がんリスク検診(ABC検診)及び同等の検査を受けたことのある方(ご自身の受診状況が不明の方は町田市健康推進課へお問い合わせください。)
  • 2.ピロリ菌除菌治療を過去に受けた方
  • 3.食道・胃・十二指腸に関する疾患で、経過観察中・治療中の方
  • 4.胃切除後の方
  • 5.胃がんの手術を受けた方
  • 6.プロトンポンプ阻害薬(胃酸の分泌を抑える薬)を2ヶ月以内に服用された方
  • 7.腎不全または腎機能障害のある方(クレアチニン3.0ミリグラム/デシリットル以上)

費用

800円

 

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